エクゼクティブ ディレクター、GREG STARNS氏
22年間にわたり電子パワートレイン開発を牽引し続けてきたフレイザーナッシュ グループオブカンパニーズ 。現在はパワートレインのすべてのコンポーネントを自社設計しており、互換性・効率性・機能性のいずれをとっても最大限の性能を誇ります。この企業グループは共同で、航続距離を延ばす電子パワートレインをさまざまな用途や条件で試験を重ね、改良を続けています。
企業ミッションの一環として、フレイザーナッシュはメトロキャブを製造しています。メトロキャブは現在ロンドンで稼働しているブラックキャブのうち、唯一ゼロエミッションに対応した車両です。専用航続距離延長型電気自動車 (REEV) のメトロキャブタクシーは、環境に優しい交通手段の最先端を体現しているといえます。進化したメトロキャブは最新技術を採用し、快適性・性能・安全性を高めつつコスト削減にも貢献しています。メトロキャブは2014年11月からロンドンで試験運用されていましたが、ロンドンのタクシー協会から高い評価を得たことで、2017年には英国のコベントリーにて量産が開始されます。
ビジネスの課題
フレイザーナッシュが必要としていたのは、メトロキャブ車内のディスプレイシステムです。従来のタクシーのメーター表示にあたるものですが、運転手と乗客の双方にとって最高品質の利用体験をもたらすものでなければなりません。このためには各車両のディスプレイに電源を供給する車載コンピュータが必要となりました。しかし、開発と試験のフェーズを通じて、組込型ソリューションを自社で構築するのはあまりに複雑でコストがかかりすぎるということが判明したのです。
「信頼性とメモリー破損に関して深刻な不具合が生じていました。微調整や改良を繰り返しましたが、どうしてもベストソリューションに辿り着けなかったのです。そこそこの機能は達成できるのですが、当社が必要としていたのは確かな機能でした」とフレイザーナッシュ社ソフトウェア開発グループのエグゼクティブディレクターであるGreg Starns氏は語ります。
ソリューション
「他のモジュールを確認することでDigiへの信頼が深まりました。そこで重要部分をお任せしたのです。Digiの製品はメモリータイミングがすべて完了しており、18か月分の工程を省略することができました。これこそモジュールを外部から購入する理由です。そうした作業がすべて済んだ状態のものが手に入るのですから」とStarns氏。
フレイザーナッシュは、メトロキャブの運転手用計器と乗客用ディスプレイ全体を駆動するためNXP i.MX6 Quadを搭載した Digi ConnectCore® 6システムオンモジュール (Digi CC6) を採用しました。メトロキャブの各車両で運転手が操作するヘッドユニットは、このモジュールが制御しています。これまですべてのテクノロジーを自社開発してきたフレイザーナッシュにとって、Digi ConnectCore6の採用という決定は大きな変化でした。
Starns氏は次のように説明します。「当然のことながら、フレイザーナッシュの自社開発ではない唯一の機器としてDigiのソリューションは極めて高い基準を達成しなければなりませんでした。Digi CC6は当社が求めていた機能をすべて備えていただけでなく、当社の開発能力を15倍にも高めてくれました。そのインテリジェンスと使い勝手の良さは、当社が自社開発に求めるものと完璧に一致していました」。
また、Digi ConnectCore 6で実行するOSも、800万行にもおよぶレガシーコードを使用するWindows CEからAndroidへと変更しました。
「自社開発から脱却した当社にとって、Digiのサポートは良い模範となりました。高品質なモジュールに行き届いたサポートがついてくるのですから。Androidへの移行も順調で、Digi CC6モジュールの採用に関しては非の打ちどころがありません。IMXは、情報エンターテインメント、ラジオ、DABラジオ、FMラジオ、CDプレーヤー、衛星ナビに対応する総合ユーザーインタフェースを搭載しています。車両のエネルギーフローに関する各種画面があり、詳細な航続可能距離表示もあります。新しいDigi CC6向けのちょっとしたアプリケーションも作成することに決めました」。
成果
現在、Digi ConnectCore 6を搭載したメトロキャブは他に類を見ないインタラクティブディスプレイによって、運転手と乗客の両方に安全と快適さを提供しています。Androidへの移行によってフレイザーナッシュは最もコスト効果が高く効率の良い方法でこれを実現することができました。
「Androidビルドとソースコードへの移行が結果的に大きな成果をもたらしました。20万ポンド(28万4000米ドル)にも上ると予測されたコストが、別の環境へ開発を移行したことで1,500ポンドに収まりました。ソフトウェア開発サイクルは、1年に1プロジェクトから1年に約15プロジェクトへと変化しました。大幅な迅速化と、時間とコストの節約につながったということです」。
Digi CC6は運転手と乗客の双方にとって全面的なデジタルエクスペリエンスを実現します。運転手向けには多機能タッチスクリーンとカラーディスプレイの計器盤が搭載されます。
タクシーの前部座席は運転手のオフィスであり活動拠点でもあるので、これ以上重要なものはありません。
「タクシーの運転手は運転席がオフィスです。ビジネスマンなら会社へ行けばそこがオフィスであり、自分のデスクとコンピュータがあります。タクシーの中はタクシー運転手のオフィスなのです。1日に最大12時間もそこで座って働き続けるのですから」と語るのは、フレイザーナッシュのマーケティングディレクターSheban Siddiqi氏。「運転手に実際に会って話をすることで、彼らが売り上げの1ペニー単位にまで気を配っていることを知りました。だからこそデータがとても重要なのです。運転手はその日の売り上げを予測できるように、速すぎず遅すぎない速度を保つように1マイル単位で確認しています。アナログディスプレイは即座に廃止しました。見やすくわかりやすいデジタルディスプレイにデータを表示することが最優先事項になったからです。今ではダッシュボードにデジタルディスプレイを搭載していますが、こんなタクシーは世界のどこを探しても他にはありません」。
メトロキャブは乗客にも同等のサービスを提供しています。指先で操作できるインタラクティブシステムにカラーテレビ画面とデジタル情報エンターテインメントシステムが搭載されています。このシステムでは、ハンズフリー電話、USB 充電ステーション、高速インターネットの利用が可能です。また、乗客ひとりひとりに合わせた旅行情報も提供します。
「当社ではお客様にもできる限りの情報を提供しようと努めてきました。例えば、当社のタクシーをご利用いただくとどれだけのCO2を削減できるのかを目で確認できます。また、どのくらい燃料を消費しているのかも表示されます。これも、できるだけ多くの情報を乗客と運転手に提供するという哲学の一環です。これこそ、開発初日から目指していたことです」とSiddiqi氏は語ります。
フレイザーナッシュの使命はプレミアムなパワートレイン製品を作ること、そしてメトロキャブのあらゆる側面がそのプレミアムなレベルに達するようにすることです。今まさに、運転手と乗客の両方に対してそれを実現したのです。